声優・石野竜三のオフィシャルサイト「極楽研究所」のブログ「なんでも研究室」です。
Profile
Search this site.
メールマガジン「石野竜三公演瓦版」
語り芝居「らくだ」6月大阪公演
Twitter
オフィシャルサイト「極楽研究所」
Facebookページ
MOBILE
qrcode
Others
<< ライフスタイルだけかな | main | 本質が同じ >>
目に見える形で反論を提示する
 SF作家の山本弘さんのブログに、件の東京都青少年育成条例改正案に対する意見が「目に見える形で反論を提示する」と題して掲載されている。具体的なデータを元に検証と反論をされているので、氏のご好意に甘えて、以下に転載する事にする。
 このデータと検証を見て、アナタはどう思いますか?

■ 転載開始 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 昨日、mixi日記に「目に見える形で反論を提示する」という文章を書いたら、けっこう評判が良くて、何人もの方に転載していただいた。
 だから少し書き直して、こちらのブログにも転載することにした。トラックバック、転載はご自由に。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しつこくこの関連の話題を書かせてもらう。 
 規制賛成派の意見を見ていて思ったのは、彼らは「表現の自由なんて踏みにじってかまわない」と思っているらしいことだ。 

 だって「自由」は目に見えないから。 

「自由」は空気みたいなものだ。そこらじゅうに存在しているのに、漠然としていて、目に見えない。人はそれに支えられて生きているにもかかわらず、普段、そんなものの存在を意識していない。だから「ちょっとぐらい減っても生きていけるでしょ?」と勘違いする人間もいる。 
 空気と同じく、「自由」も欠乏したら窒息するということが、彼らには理解できていない。 

 だから「表現の自由」を錦の御旗として振りかざしても、その大切さが分からない人には、アピールしないんじゃないかと思うのである。 
 彼らにはもっと目に見えるものを突きつけなくちゃだめだ。 
 そこで、こんなアピールの方法を考えた。 

 日本の少年マンガの中で、性的描写や暴力描写が頻出するようになったのは、1960年代末からである。その牽引役が永井豪氏であることは言うまでもない。もちろん他にもエロいマンガやバイオレンス・マンガを描いていたマンガ家は何人もいたのだが、最も有名で、当時の子供たちに最も影響力があったのは、この人だと思って間違いなかろう。 

 主要作品   連載期間 
『ハレンチ学園』1968〜72 
『あばしり一家』1969〜73 
『デビルマン』1972〜73 
『マジンガーZ』1972〜74 
『キューティーハニー』1973〜74 
『バイオレンスジャック』(週刊少年マガジン版)1973〜74 
『イヤハヤ南友』1974〜76 
『けっこう仮面』1974〜78 
『へんちんポコイダー』1976〜77 

 永井氏の人気の絶頂期が60年代末から70年代後半であったことが分かる。
 この時代を生きた人なら、『ハレンチ学園』が巻き起こした一大センセーションをご記憶のはずである。これらの作品のどれも、未成年の全裸、セクハラ、下品なギャグ、暴力描写、残酷描写などがてんこ盛りだった。『けっこう仮面』なんか全裸で「おっぴろげジャンプ」をやるのだ。正直、今の少年マンガのエロ(『To LOVEる』とか)なんて、永井豪作品に比べれば生ぬるいぐらいである。もちろん当時、PTAなどに「有害だ」とさんざん叩かれた。 
 規制推進派によれば、こうした作品は「青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」ということになろう。つまり永井豪作品のような不健全なマンガが増えることによって、青少年の性犯罪、自殺、殺人などが増加していたはずである。 
 実際はどうだったか。青少年によるレイプ、自殺、殺人の推移を見てみよう。 


 60年代後半から急降下している。


 1965年からほぼ横ばい。


 60年代後半から、すごい勢いで急降下! 

 無論、大勢のレイプ犯の中には、永井豪作品に刺激されて犯行に走った者が何人かいた可能性は否定できない。だが、それは実証できない。 
 たとえ何人かそういう奴がいたとしても、この時代の急激な犯罪率低下の波に飲みこまれ、データからは見えなくなっている。 
 3番目のグラフから分かるように、日本で少年による殺人が最も多かったのは、戦後の混乱期を除けば、1961年である。マンガは『鉄腕アトム』や『鉄人28号』の時代。少年や少女の読むマンガにエロい描写や残酷描写などまったくなかった。エロゲやエロアニメどころか、TVゲームやTVアニメというものすら無かった時代である。

 さらに、規制推進派の主張からすると、青少年向けマンガの表現規制が日本よりはるかにきびしいアメリカやイギリスやカナダや韓国に比べ、日本の犯罪率は高いはずである。 
 現実はこうだ。 

 日本は65ヶ国中54位。韓国16位、イギリス13位、アメリカ9位、カナダ5位。 

 日本は62ヶ国中60位。イギリス46位、カナダ44位、韓国38位、アメリカ24位。 

 日本は57ヵ国中57位! イギリス52位、カナダ&韓国39位(同率)アメリカ14位。 

 少ねー! 日本の犯罪、少ねー! 
(ちなみにこの統計には、中国や北朝鮮、アフリカの多くの国が入っていない。それらを入れれば、たぶん日本の順位はもっと下がる)
 これは世界に誇るべきだ。日本はこれだけエロマンガやエロゲーが氾濫しているにもかかわらず、世界の中でも、とてつもなく犯罪の少ない国なんである。 

 さらにアメリカのデータを見てみよう。 
 アメコミ・ファンならご存知だろうが、アメリカでは1949年ごろから、精神科医フレドリック・ワーサム博士が、コミックスが青少年に与える害を説きはじめた。当時のコミックスには、残酷なシーンやセクシャルなシーン(斧で切断された首、目をナイフでえぐられようとしている女性、ムチで打たれている女性、きわどい衣裳で踊る女性、下着姿で縛られた女性などなど)が多かったのだ。こうしたコミックスは青少年を堕落させ、犯罪に走らせると考えられた。
 全米で激しい反コミックス運動が起きた。出版社やニューススタンドには「俗悪なコミックスを売るな」という抗議が殺到。一部の地方では、大量のコミックスが学校の校庭などに集められて燃やされた。 
 1954年、合衆国議会の少年非行対策小委員会は「コミックブックと非行」と題するレポートを発表、青少年に悪影響を与える可能性のある表現を規制するよう、コミックス出版界に勧告した。 
 これを受け、全米コミック雑誌協会は「あらゆるコミュニケーション・メディアの中でもっとも堅苦しい」と彼ら自身によって評されたコミックス・コードを制定した。1954年8月26日のことである。
 その内容は次のようなものだった。


「犯罪者を魅力的に描いたり、模倣する願望を抱かせるような地位を占めさせるような表現を行うべきではない」 
「いかなる場合においても、善が悪を打ち負かし、犯罪者はその罪を罰せられるべきである」 
「残忍な拷問、過激かつ不必要なナイフや銃による決闘、肉体的苦痛、残虐かつ不気味な犯罪の場面は排除しなければならない」 
「いかなるコミック雑誌も、そのタイトルに『horror』や『terror』といった言葉を使用してはならない」 
「あらゆる、恐怖、過剰な流血、残虐あるいは不気味な犯罪、堕落、肉欲、サディズム、マゾヒズムの場面は許可すべきではない」 
「あらゆる戦慄を催させたり、不快であったり、不気味なイラストは排除されるものとする」 
「歩く死者、拷問、吸血鬼および吸血行為、食屍鬼、カニバリズム、人狼化を扱った場面、または連想させる手法は禁止する」 
「冒涜的、猥褻、卑猥、下品、または望ましくない意味を帯びた言葉やシンボルは禁止する」 
「いかなる姿勢においても全裸は禁止とする。また猥褻であったり過剰な露出も禁止する」 
「劣情を催させる挑発的なイラストや、挑発的な姿勢は容認しない」 
「不倫な性的関係はほのめかされても描写されてもならない。暴力的なラブシーンや同様に変態性欲の描写も容認してはならない」 
「誘惑や強姦は描写されてもほのめかされてもならない」 

 などなど、まさにがんじがらめの規制。今の日本のマンガ雑誌、軒並みアウトですな。(笑) 

 暴力表現や性的な表現にきびしい規制が設けられた結果、コミックス界全体から活力が失われた。ニューススタンドがコミックスを置かなくなったこともあり、読者の多くがコミックスを買わなくなった。
 コミックス・コード制定前、コミックス誌は650タイトルもあり、毎月1億5000万部も発行されていたのだが、ほんの数年で半減してしまった。多くの出版社がコミックスから撤退した。フィクション・ハウス社やベター社など、倒産した出版社もいくつもある。 
 その結果、アメリカの犯罪は減っただろうか?

 まさに一目瞭然! コミックス・コードが施行された54年以降、アメリカの犯罪は減るどころか、急カーブを描いて上昇しており、1980年には3倍にもなっている! 
 Wikipediaの解説にもあるように、80年代頃からコミックス・コードを破る作品(『ウォッチメン』や『バットマン/キリング・ジョーク』など)が次々に出てきて、現在ではほとんどコードは形骸化している。

 ちなみにこのアメリカの指標犯罪のグラフは、前田雅英『少年犯罪』(東京大学出版会)という本から引用したものである。 
 そしてこの前田雅英氏こそ、今回の「東京都青少年の健全な育成に関する条例」の改正案を出した東京都青少年問題協議会の専門部会長なのである。 
 どうなってるんだろうか。前田氏は自分の本に載せたグラフの意味を理解していないのか。
 つまり、マンガの表現と青少年の犯罪の間には、規制推進派が主張するような正の相関関係ではなく、負の相関関係(表現が過激になれば犯罪が減る)があるのだ。 
 無論、相関関係があるからといって因果関係があるとは断言できない。相関関係はあっても因果関係のない事例はいくらでもある。 
 だが、少なくとも、相関関係が存在しないところに因果関係を求めるのは無茶だということは、子供でも分かるだろう。 
 それに、もしかしたら本当に因果関係があるのかもしれない。海外では「ポルノが性犯罪を抑制している」という研究があることもつけ加えておく。 


 規制推進派の人たちはこうしたことを知らないのだろうか? 
 そんなことはない。彼らは知っている。第28期東京都青少年問題協議会議事録(第10回専門部会)には、こんなくだりがある。 


>○吉川委員 (中略)特に、答申案の46ページに、そうした図書が自由に流通していることによって、子どもたちがこのような性交をしても構わないという認識を青少年が持って、健全な性的判断能力が大きくゆがめられることになると言い切っていますが、ここについて、その根拠はどこかと言われたら、それあくまで我々としては、たぶんそうだろうという認識であるとしか言えなくて、私自身、別に過激な漫画、子どもポルノについて容認する立場では全くないのですが、こうした指摘に対しての見解案としては、少しピントがずれていると言われても仕方がないのかなと危惧しております。 

「たぶんそうだろう」というのが根拠なのだそうだ。 

>○吉川委員 私としては、性犯罪の減少も目的の一つであると言ってしまって、ただ、そうした創作物が性犯罪の発生と密接な因果関係があるかどうかを、必ずしも統計を示してまで立証する必要はなくて、逆に、関係がないという根拠もないわけなので、だから、統計的なデータがないから犯罪との因果関係がないとは別に言い切れないと突っぱねたらいいと思います。 

 立証する必要はないし、データがなくても「突っぱねたらいい」のだそうだ。 
 ふざけるな。 
 お分かりだろう。彼らは自分たちの主張を支持する根拠がないことを知っている。にもかかわらず、規制を主張するのだ。これはもう、「データなんかどうでもいい。俺たちは規制したいからするんだ」と自白しているようなものである。 

 まとめよう。 

【規制によるメリット】
・表現を規制すれば青少年への悪影響が少なくなって犯罪が減る。(ただし証明されていない。データは正反対の相関を示している) 

【規制によるデメリット】
・表現を規制すれば逆に犯罪が増える可能性がある。(因果関係は証明されていないが、相関関係はある) 
・出版業界、アニメ業界、ゲーム業界が打撃を受け、多大な経済的損失が生じる可能性が高い。 
・冤罪事件や言論弾圧に悪用される危険がある。 

 グラフを提示するとともに、「このメリットとデメリットを比較してください。あなたなら規制に賛成しますか?」と問いかけてみるというのはどうだろうか。 
「表現の自由」という抽象的な概念に頼らなくても、これぐらい具体的に、目に見える形で提示すれば、理解してくれる人は増えると思うのだが。

■ 転載終了 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
| - | 00:55 | - | trackbacks(0) | このページのトップへ
この記事のトラックバックURL
トラックバック